ひしと泣く声は、
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与八はあとをつづけて、
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さいの河原に集まりて、
父こひし、母こひし、
こひし、こひしと泣く声は、
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和尚は先へ進んで、
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この世の声とはことかはり、
悲しさ骨身《ほねみ》を透《とほ》すなり、
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「方丈様、なんだか悲しくなっちまった」
与八の眼には涙がいっぱいです。
「有難い地蔵様のお慈悲じゃ、涙もこぼれようわい。我々|凡夫《ぼんぷ》の涙は、蜆貝《しじみがい》に入れた水ほどのものじゃ、地蔵様の大慈大悲は大海の水よりも、まだまだ広大。それ我々凡夫は、ちょっとしたことにも悲しいの、嬉しいの、すぐ安っぽい涙じゃが、この無仏世界の衆生《しゅじょう》の罪障《つみ》をごらんになる大菩薩の御涙というものは、どのくらいのものか測《はか》り知れたものでない。南無延命地蔵大菩薩、おん、かかか、びさんまえい、そわか」
「そういえば、そうだなあ。俺《わし》らは一人の子供の身の上でも心配すると泣き切れねえことがある、お地蔵様がこの世間をごらんになったら、さぞ辛《つら》いこ
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