様を峠の天辺まで背負《しょ》って行ってやるべえ」
「そいつは面白い、この石も、お前に担《かつ》いで来てもらったのだから、御尊体も、お前に持って行ってもらうことにしよう」
「有難え、有難え、そうすると、俺も功徳《くどく》になる」
「結構結構、南無延命地蔵大菩薩《なむえんめいじぞうだいぼさつ》、おん、かかか、びさんまえい、そわか――」
「方丈様」
「何だ」
「あの地蔵様の歌のつづきを教えてもらいてえ」
「和讃か」
「西院河原地蔵和讃《さいのかわらじぞうわさん》、空也上人御作《くうやしょうにんおんさく》とはじめて――
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これはこの世のことならず、
死出《しで》の山路《やまぢ》の裾野《すその》なる、
さいの河原の物語、
聞くにつけても哀れなり、
二つや三つや四つ五つ、
十にも足らぬみどり子が、
[#ここで字下げ終わり]
 ここまで覚えたからその次を」
「よしよし、わしが唱《とな》えるから、あとをつけろや」
 東妙和尚は石鑿《いしのみ》を地蔵の御衣のひだ[#「ひだ」に傍点]に入れて直しながら、
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さいの河原に集まりて、
父こひし、母こひし、
こひし、こ
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