その上で、石の地蔵をコツコツと刻《きざ》みはじめる。
 郁太郎《いくたろう》を背負《おぶ》ったなりで与八は和尚の傍へ坐り込んで、
「出来たな、やあ、相好《そうごう》のいい地蔵様だ」
「これから錫杖《しゃくじょう》の頭と、六大《ろくだい》の環《かん》を刻めば、あとは開眼《かいげん》じゃ」
「方丈様、どこへこの地蔵様をお立てなさるだね」
「うむ、これを立てるところか。それはな、ちっとばかり風《ふう》の変ったところへ立てるつもりだよ」
「どこだえ、この寺のお庭かえ、この桜の下あたりがいいな」
「いや、こんなところじゃない、わしは、ずっと前から思いついていたのじゃ、ほれ、大菩薩峠の天辺《てっぺん》へ持って行って立てるつもりだ」
「大菩薩峠の天辺へ……」
「名からしてふさ[#「ふさ」に傍点]わしいと言うものじゃ、地蔵菩薩大菩薩、なんとよい思いつきだろう」
「そりゃ方丈様、いい思いつきだ」
「賛成かな。それで与八、出来上ってからここで開眼供養《かいげんくよう》というのをやって、それから大菩薩峠の頂へ安置《あんち》する」
「なるほど」
 与八はしきりに感心をして、
「その時は、方丈様、俺がこのお地蔵
前へ 次へ
全121ページ中80ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング