思うよう、
「自分は、新撰組を出よう。もとより自分の目的は、新撰組に加盟することではなかった、ただ、兄の仇を討たんがため、近藤、土方ら先輩の力を頼《たよ》りに、ついついその組の一人とはなったが、どうも久しく足を留むべきところではないようだ」
十三
「与八ではないか」
「これは方丈様」
「このごろ、面《かお》を見せないからどうしたかと思った」
「このごろは仕事が忙《せわ》しいもんだから、つい御無沙汰をしました」
「ちと、やって来い、この間お前に運んでもらった石をコツコツやっているよ」
「お地蔵様をお彫《ほ》りなさると言ったあの石かい」
「そうだ、そうだ」
「方丈様、お前は絵もかけば字も書く、彫物《ほりもの》なんぞもなさるだね」
「ああ、何でもやるよ、畑つくりでも米搗《こめつ》きでも一人前は楽にやるよ」
「感心なものだね」
「生意気なことを言うな。それはそうと与八、遊びに来い、檀家《だんか》から貰った牡丹餅《ぼたもち》や饅頭《まんじゅう》がウンとあって本尊様と俺とではとても食いきれねえ、お前に好きなほど食わしてやる」
「本当かい」
「嘘を言うものか、米の飯も食いたけれ
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