、無銭《ただ》同様で引受けて、桑を植えた。その男には別に祟りも見えなかった。世間も安心し、当人も自慢でいると、或る年の冬、その畑に手入れをしているとき、桑の枯枝を結《ゆわ》えてあった藁《わら》がプツリと切れて、その枝が眼を撥《は》ねた。家へ帰って来る間に、その眼がつぶれてしまった。
それから後、七兵衛屋敷はどうなったか知らない。
壬生《みぶ》の村のその晩はことに静かな晩でした。南部屋敷もさすがに人は寝静まる、勘定方《かんじょうかた》平間重助《ひらまじゅうすけ》は、井上源三郎と碁《ご》を打っているばかり。井上の方が少し強くて、平間は二|目《もく》まで追い落される。二人が碁をはじめると夜明しをするのが定例《きまり》。お互いに天狗を言いながら局面を睨《にら》んでいると、夜中にフイと行燈《あんどん》の火が消えた。
「や、油が尽きたかな、火取虫めのいたずら[#「いたずら」に傍点]か」
ようやく附木《つけぎ》の火はついた。室には何の変ったこともなく、盤面の石もそのままに。行燈の油が尽きたのでも火取虫が来たのでもないようであったが、碁に夢中な二人は燈火《あかり》の消えた原因などを調べている余
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