夜、人知れず、この地蔵様のお膝元《ひざもと》を掘って、相当の金を埋めておく、その金が三日たってもとのままであった時は、その月のうちに願い通りの大金が儲《もう》かる、なんぞと言い触らす者があった。けれども埋めた人で、三日たって元の金を見た者がない。それは附近の博徒《ばくと》がそんな流言をしておいて、埋めた金をそっ[#「そっ」に傍点]と掘り出してしまうのだとわかって、金を埋めるものはなくなった。近ごろは町並を改正したために「七兵衛地蔵」もほかへ移されたということです。
 七兵衛の屋敷跡も、いま現に「七兵衛屋敷」と唱《とな》えて青梅の裏宿《うらじゅく》に桑畑になって残っているが、この「七兵衛屋敷」には、さまざまの祟《たた》りがあると言い触らされている。最初にそれを買った人は、手入れをする早々、眩暈《めまい》がするとて引込んで、その晩に頓死した。二度目に安くそれを引受けた人は、ブラブラ病にかかって、三月目ほどで死んでしまった。三度目には怖《おそ》れて近づく人もなく放《ほう》ってあったのを、剛情な男があって、なにを、それは時のめぐり合せだ、物の祟りなんぞは、箱根から東にはねえ、なんぞと言って
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