り、粉を振《ふる》ったりして稼《かせ》ぐつもりでございます」
「万年橋の水車で……あそこに知人《しりびと》でもあるのかな」
「あい、約束した人が……約束と申しますと、異《い》なことに聞えましょうけれど、わたしを親身《しんみ》にしてくれた人が待っているはずでございます」
この女を待っているというのは何者、約束した人とは誰。はたしてそんな人があるならば頼もしい。
十
京に多き物、寺、女、雪駄直《せったなお》し。少なき物、侍、酒屋、けんどん屋、願人云々《がんにんうんぬん》。それがこのごろはどこへ行っても、肩ひじ怒らした侍ばかり、多いものの二番目に数えられた女の影がかえって道の通りには甚だ少ない。
島原の廓《くるわ》、一貫町を出てから七兵衛は胸算用《むなざんよう》をはじめました。
お松を身受けするのに、費用が四百両の頭を出る、百両を手金《てきん》に置いて、あとの三百五十両、それをこれから工面《くめん》にかかる、猶予《ゆうよ》を三日間とっておいた。
千本通《せんぼんどおり》で暮六《くれむ》ツが鳴る。
道すがら町と人家の形勢を見て、そのつもりもなく壬生《みぶ》の地
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