たよ》るところもないようではあるし、わしも思うように世話をして上げるわけにはいかない。縁あってこちらに来たものだから、いっそこちらで暮すもよいかも知れぬ。どうだ、お前の考えは。遠慮なく言ってごらん」
「有難う存じます、おじさん、どこへ行きましても、運の悪いものは悪いものでございますね、わたしは、もう諦《あきら》めました」
「どう諦めた」
「江戸へ帰りたいとも思わず、ここで一生を送りたいとも思いませぬ……運には勝てませぬから、何事にも逆《さから》わず身を任せて行くつもりでございます」
七兵衛は腕を組んで暫く考え、
「それでは……お前は傾城《けいせい》になるつもりかえ」
「この月中《つきうち》に、あのお雪様の妹分として、つとめをするように、きまってあるのでござんすから……わたしもその気になってしまいました」
七兵衛は、考え込んだ上で、
「そう腹がきまれば、それでいいようなものだが、わしに言わせると、それでは済まぬ、わしはお前を遊女傾城にしたくはないというものだ」
「けれども、おじさん……」
「わしは、お前を救い出しに来たはずなのだ、なんとしても一旦はお前の身受けをせにゃならぬ、それから
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