い》のように思うていると言うたが、姉にすれば申し分のない姉、あんな姉があらばお松は仕合《しあわ》せである、お松のためにはこのままにして、あの太夫に任せておく方がけっく幸福か知らん。七兵衛はお松の身受けに来たのだけれど、来て見ればお松の将来についてまた変った考えが出て来ます。
七兵衛はそれから、お松の身受けの金のこと、関東へつれて帰ってどうしようかということなどを、いろいろと考えているうちに眠くなって、うとうとと夢に入ろうとすると、
「御免あそばせ――あ、おじさん」
眠りに落ちようとした七兵衛は、物音に眼をあいて、そこへ入って来た美しい女の姿を見る。
「青梅のおじさんではないか」
女はこう言って跪《ひざまず》いたので、七兵衛は身を起して、
「お松坊か――お松坊であったか」
「はい」
お松の姿は、三度変っている。第一は大菩薩峠の頂で猿と闘った時の笈摺《おいずる》の姿、第二は神尾の邸に侍女《こしもと》をしていた時の御守殿風《ごしゅでんふう》、第三はすなわち今、太夫ほどに派手《はで》でなく、芸子《げいこ》ほどに地味《じみ》でもない、華奢《きゃしゃ》を好む京大阪の商家には、ちょうどこのく
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