において「島原|未《いま》だ侮り易《やす》からず」と最初の独断をやや悔いはじめるものもあるし、頑迷いよいよ度すべからず、これだから「滅びゆく島原」だと匙《さじ》を投げる者もある。
 幸いに、許されて中に入ることの光栄を得たものにしてからが、まず何となしにばかばかしくなる。荒削《あらけず》りの巨大な柱が煤《すす》けた下に、大寺院の庫裡《くり》で見るような大きな土竈《へっつい》がある、三世紀以前の竜吐水《りゅうどすい》がある、漬物の桶みたようなのがいくつも転《ころ》がっている。何のことはない、二十代もつづいた大庄屋《おおしょうや》の台所へ来たようなものです。
 おまけに、長押《なげし》には槍、棒、薙刀《なぎなた》のような古兵具《ふるつわもの》が楯《たて》を並べ、玄関には三太夫のような刀架《かたなかけ》が残塁《ざんるい》を守って、登楼の客を睥睨《へいげい》しようというものです。
 恐る恐る座敷へ通って見ると、京都式の天井は低く、光線のとり具合は極めて悪い。しかしながら、そこにもここにも底光《そこびか》りがある、低くて暗いのは必ずしも浅くて安っぽい意味でない、というような感じも幾分か出て来て、
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