「どのみち、雨となるか風となるか、組の中にも芹沢派と近藤派とは、油と水じゃ。困ったものじゃて」
「生国《しょうごく》から言えば同じ武蔵、拙者は近藤派によしみが深い、しかし、芹沢には義理がある」
竜之助は思案の体《てい》です。
「うむ、拙者も生国は水戸じゃ。芹沢とは同国なれども、人物は近藤が一段上と思う」
山崎は、新撰組両隊長の器量を一寸《ちょっと》ばかり比べてみて、
「どうも、近藤派の方が、人望があるようじゃ、芹沢は乱暴でいかん、近藤は目先が見える、芹沢は人に嫌われる、近藤は人に怖れられる……ゆくゆく新撰組は近藤のものであろう、なりゆきに任せて、拙者は黙って見ている」
芹沢鴨は水戸の天狗党の一人です。芹沢鴨とは変名で、実は木村|継次《つぐじ》という。同じ水戸の山崎が見て、団扇《うちわ》を近藤に上げるところより見れば、双方の相違がおのずからわかるとも言える。
「いずれにしても、拙者は、これより壬生へ行くことは見合わせ、ほどよき宿をとって、ひそかに芹沢と会いたい、そうして身の振り方をきめる」
「そうか、まあゆっくり都見物でもするがよい、隊へ入ると気が忙しくなる」
「芹沢に、拙者が上っ
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