と、かの変人、実は変人でも愚物《ぐぶつ》でもない、水戸の人で山崎|譲《ゆずる》。新徴組の一人で、香取《かとり》流の棒をよく使います。竜之助とは江戸時代からの知合いで、はからずあの場へ来合わせて仲裁を試みたもの。
 田中去って後、竜之助と山崎とは水入らずの旧知で、
「時に吉田氏、その後の雲行《くもゆき》は、いよいよ穏かでないぞ」
「うむ、そうか」
「清川八郎が手で、新徴組の大部が江戸へ帰ったことは聞いたか」
「それは聞いた、横浜の毛唐《けとう》を打ち攘《はら》う先鋒《せんぽう》とやら」
「清川は食えぬ奴、なんというても新徴組第一の人物」
「そうかも知れぬ」
「毛唐を打つというも、実は江戸で事を挙げる、新徴組をダシに使うて幕府を覘《ねら》う奴じゃ」
「なるほど、あいつは放《ほ》っておいたら、えらいことをしかねない」
「芹沢、近藤、土方など、幾度もあいつが首を覘うたが、運が強い」
「うむ」
「ところが、天運めぐりめぐって、ついこの間、首尾よく清川を討ち止めた」
「ナニ、清川が殺された?」
「いかにも。芝の赤羽橋で、速見又四郎、佐々木只三郎らの手で、見事にしてやられた」
「やつも、千葉の高弟で
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