会津侯へは、昨夜盗賊が入って、そのために芹沢が殺されたと届けた。これも滑稽な話で、新撰組の屯所《とんしょ》へ入る盗賊があると思うのも、あったと届けるのも、共に虫のよい骨頂《こっちょう》であるが、表面はそれで通った。
新撰組の内訌《ないこう》もこれで片がついて、芹沢の子分は二三人、姿をくらました者もあった。勘定方の平間重助なども逃げてしまったが、大体は大した変りなく、その全権は近藤勇の手に帰《き》して、土方歳三はその副将となる。近藤勇が京の地を震《ふる》わすのはこれから。
十六
夜明《よあ》け烏《がらす》の声と暁の風とで、ふと気がついた机竜之助は、自分の身が、とある小川の流れに近く、篠藪《ささやぶ》の中に横たわっていることを知った。それでも刀だけは手から離さず、着物は破れ裂けて、土足には突傷かすり傷。
「ああ」
起き返ろうとしたが節々《ふしぶし》が痛い、じっとしていれば昏々《こんこん》として眠くなる、小川の縁《ふち》へのた[#「のた」に傍点]って行って水を一口飲んで、やっと気が定まる。
どうして、こんなところへ。ああ、あれからあれ、あれまでは確かであった。
前へ
次へ
全121ページ中109ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング