梅を抱いて快く眠った。屏風《びょうぶ》を立て廻して同じ広間の中へ、平間と糸里、平山と小栄の二組も、床を展《の》べさせて夢に入る。芹沢が欣々《きんきん》としていたのは近藤を謀《はか》り得たと思ったからです。今宵の宴会の終りに近藤勇は、その馴染なる木津屋の御雪を呼ぶか、御雪のところへ行くか、然らずば晩《おそ》くこの屋敷へ帰る。その隙《すき》を見て多勢で暗討《やみう》ち。人の手配《てくばり》に抜かりなく、ことにその手利《てき》きの一人として机竜之助を頼んでおいた。明日になれば、首のない近藤勇の死骸を、島原|界隈《かいわい》で見つけることができる。そして新撰組の実権を自分の一手に握る、これを根拠としてやがて一国一城の望みを遂げようという。
 ところが、それよりズット前に、近藤勇は土方歳三と沖田総司と藤堂平助とをつれて、駕籠にも何にも乗らずコッソリ裏の方からこの屋敷へ帰って来て、いるかいないかわからないくらいの静かさでおのおの近藤の居間に集まっていたのを芹沢らはちっとも知らなかった。芹沢らがいよいよ寝込んでしまったと見定めた時に、近藤勇だけは平服、土方と沖田と藤堂の三人は用意の黒装束《くろしょう
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