ンヤリと光っていた罪のない行燈《あんどん》は、真向《まっこう》から斬りつけられ、燈火はメラメラと紙を嘗《な》める。竜之助は、行燈が倒れて、火皿の燈心が紙に燃えうつるのを見て、立ち止まって笑う。
お松は、この間に逃げ出した。多くの人はお松の叫び声でバラバラとここへかけつける。
竜之助は、襖にうつろうとする火の色を見て笑っています。
十五
その晩、芹沢鴨は早く宴会の席を出て壬生の屋敷に帰り、愛妾《あいしょう》のお梅を呼び寄せる。お梅というのは、さきごろ町家の女房を強奪して来たそれです。
芹沢と一緒に帰ったのは、その腹心平間重助と平山五郎。
芹沢が早く席を切り上げて帰ったのも珍らしいが、今宵は非常に機嫌がよくて、お梅を相手に飲み直していると、平間重助はその馴染《なじみ》なる輪違《わちがい》の糸里という遊女、平山五郎は桔梗屋《ききょうや》の小栄というのをつれ込んで、この三組の男女は、誰憚らぬ酒興中、芹沢は得意げに言うことには、
「いよいよ拙者の天下である、明日になって見ろ、わかることがある」
こう言って、芹沢はお梅に酌をさせて頻《しき》りに飲んだ。
芹沢はお
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