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ちちははの めくみもふかき こかはてら
ほとけのちかひ たのもしきかな
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         十五

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東海道、関《せき》
江戸へ百六里二丁
京へ十九里半
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 伊勢の国|鈴鹿峠《すずかとうげ》の坂の下からこっちへ二里半、有名な関の地蔵が六大無碍《ろくだいむげ》の錫杖《しゃくじょう》を振翳《ふりかざ》し給うところを西へ五町ほど、東海道の往還《おうかん》よりは少し引込んだところの、参宮の抜け道へは近い粗末な茶店に、七十ばかりになるお爺《じい》さんが火縄《ひなわ》をこしらえながら店番をしていると、
「許せ」
 上りの客はこの宿《しゅく》で、下りの客は坂の下あたりで宿《やど》をきめてしまったと思われる時分、この茶店へ飄然《ひょうぜん》と舞い込んだのは一人の旅の武士《さむらい》であります。
「おいでなさいまし」
 老爺《おやじ》は火縄の手を休めて腰を立てると、武士は肩にかけた振分けの荷物を縁台の上に投げ出して、野袴《の
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