家は揉《も》める、なんしろお内儀さんというのが家附きの娘ですから、出るの入るの、摺《す》った揉んだのあげく」
「離縁になったのかな」
「ところが騒ぎの真最中《まっさいちゅう》、御亭主殿が急に患《わずら》いついてポクリと死んでしまいました」
「はあ――て」
「それからお内儀さんというものが捨鉢《すてばち》の大乱痴気《だいらんちき》で身上《しんしょう》は忽ちに滅茶滅茶、家倉《いえくら》は人手に渡る」
「ふむ」
「そのまた買った人がどうしても伸立《のだ》たない。なんでもあの土蔵からお化《ば》けが出るという噂で、あれからもう三代目、こうしていまだに売物に出ていますようなわけで」
「それはまあ、なんにしてもお気の毒……そのお内儀さんというのは今どうしていますな」
「さあ、そいつが聞きもので……しかし私ばかりこうベラベラ喋《しゃべ》ってもよいもんですかどうですか。旦那、お前様はいったい山岡屋の何なんでございます」
「お前さんはまた何だえ」
二人は面《かお》を見合せて、
「実は旦那」
紙屑買いの言葉が妙に改まって、
「私共の面にはお見覚えがござんすまいが、私共の方には旦那のお面にようく見覚えがご
前へ
次へ
全87ページ中63ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング