出すか聞くだけ聞いてやろうと、道づれになって歩き出すと、
「今から四年ほど前の夏の盛りのことでございました。或る晩のこと、あの山岡屋へ泥棒が入りましてな」
「ふーむ」
「ちょうど旦那は留守でございました。ところがお内儀《かみ》さんのお滝というのが、眉の毛を剃《そ》り落した若い男を引張り込んでふざけているところへ、その泥棒がお見舞い申したのでございます」
「なるほど」
「その泥棒というのが、ただの物盗《ものと》りばかりではない、意趣返《いしゅがえ》しに来たものと見えて、内儀さんと若い男をずいぶんこっぴどい目に遭《あ》わせて帰りました」
「なるほど」
「とても委《くわ》しくは申し上げられませんが、早い話がお内儀さんと若い男を素裸《すっぱだか》にしましてな」
「ふむ」
「それでお前さん、朝になってからの騒ぎというものは御覧《ごろう》じろ、話にも絵にもなりませんわ」
「なるほど」
「それが忽《たちま》ち評判になる、山岡屋のお内儀《かみ》さんは強盗に裸にされたという噂《うわさ》がパッとひろがったから、とても居堪《いたたま》れません」
「なるほど」
「そこへ御主人が帰って来た」
「ふむ」
「さあ、
前へ
次へ
全87ページ中62ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング