ぎゃくふう》。
「これは――」
やや驚いて、表を読んでみると「机竜之助殿」、裏を返せば「宇津木兵馬」。
竜之助は勃然《ぼつぜん》として半身を起し、封を切って読むと、
[#ここから1字下げ]
「貴殿に対して遺恨あり、武道の習《ならひ》にて果合《はたしあひ》致度、明朝七ツ時、赤羽橋辻《あかばねばしつじ》まで御越《おこし》あり度」
[#ここで字下げ終わり]
「うむ、小癪《こしゃく》な果し状」
竜之助は手紙をポンと投げ出して、夜具を蹴って起き直りました。
「坊やはどうじゃ」
「よく寝ておりまする」
竜之助はお浜の抱いている郁太郎の面《かお》をのぞき込み、
「医者の申すには、一時《いっとき》物に怖《おび》えたので、格別のこともないそうな」
起きて面を洗い食事を済ましてから、
「浜、坊やをこれへお貸し」
「それでもよく眠っておりますものを」
「眠っていてもよいわ、抱いてみたい」
「今日に限ってそんなことを」
「いいからお貸し」
「せっかく寝たものを、起すとまたむずかりまする」
「いいから、これへ出せというに」
竜之助の言葉が強くなりますので、お浜は詮方《せんかた》なく、よく寝ていた郁太
前へ
次へ
全87ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング