ぎゃくふう》。
「これは――」
 やや驚いて、表を読んでみると「机竜之助殿」、裏を返せば「宇津木兵馬」。
 竜之助は勃然《ぼつぜん》として半身を起し、封を切って読むと、
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「貴殿に対して遺恨あり、武道の習《ならひ》にて果合《はたしあひ》致度、明朝七ツ時、赤羽橋辻《あかばねばしつじ》まで御越《おこし》あり度」
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「うむ、小癪《こしゃく》な果し状」
 竜之助は手紙をポンと投げ出して、夜具を蹴って起き直りました。
「坊やはどうじゃ」
「よく寝ておりまする」
 竜之助はお浜の抱いている郁太郎の面《かお》をのぞき込み、
「医者の申すには、一時《いっとき》物に怖《おび》えたので、格別のこともないそうな」
 起きて面を洗い食事を済ましてから、
「浜、坊やをこれへお貸し」
「それでもよく眠っておりますものを」
「眠っていてもよいわ、抱いてみたい」
「今日に限ってそんなことを」
「いいからお貸し」
「せっかく寝たものを、起すとまたむずかりまする」
「いいから、これへ出せというに」
 竜之助の言葉が強くなりますので、お浜は詮方《せんかた》なく、よく寝ていた郁太
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