で漬《つ》けたような汗《あせ》であるのにも驚きました。
「よく見て下さいまし、坊やが鼠に噛《か》まれました」
「ナニ、鼠に?」
「はい、大きな鼠があの仏壇から出て、この中に潜《もぐ》りこんで坊やに食いつきました」
「どれどれ」
竜之助は起き上って、燈心を掻き立てて、郁太郎の身体を調べて見ると咽喉《のど》に一文字の創《きず》。別に深い創ではないが、そこから血がにじん[#「にじん」に傍点]で、蚯蚓《みみず》ぐらいの太さにダラダラと落ちて行くのです。
「咽喉を噛まれました」
お浜は狂気のように叫びます。
「大事はない、早く血を拭いて創をよく巻いてやれ」
竜之助はあり合せた晒木綿《さらしもめん》の断切《たちぎ》れを取ってやる。
「針箱の抽斗《ひきだし》に膏薬《こうやく》がありますから早く……早くして下さい」
「焦《せ》くなよ」
「まあ焦《じ》れったい、その右の小さい方の小抽斗《こひきだし》」
「これか」
「水でよく創《きず》を洗ってやりましょう、あなた、お冷水《ひや》を」
お浜は何もかも夢中で騒いでいます。ようやく水で拭き取った創のあとを洗ってやる、その間も郁太郎は苦しがって身をもがい
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