はん》の仕度が出来たから一緒に食べましょう」
「そうかい、お前様が仕度をして下すったかい」
 二人は膳《ぜん》を並べて、
「さあ与八さん、お出しなさい」
「どうも済みましねえ」
 ここで旅費も出来たから、二人はかねての望み通り沢井へ行って、与八はもとの水車番、お松はその傍で襷《たすき》がけで働くこと、その楽しい生活を想像しながら話し合って、食事を終り与八は、
「そんならお医者様へお礼に行って来るだ」

         六

「何だって、薬礼を持って来たって。薬礼を持って来たらそこへ置いて行きな」
 与八が訪ねて行った時、道庵先生は八畳の間に酔い倒れて、寝言《ねごと》半分に与八に返事をしています。
「先生、いくら上げたらいいだ」
「いくら? 十八|文《もん》も置いて行きねえ」
「十八文?」
 与八も変な面《かお》をして、
「半月もお世話になって十八文じゃ、あんまり安い」
「生意気なことを言うな、安かろうと高かろうとこっちの売物《うりもの》だ」
「先生、そんなことを言わねえで、本当の値段を言っておくんなさいまし」
「だから十八文でいいのだ」
「先生酔っぱらっていなさるからいけねえ」
「酔
前へ 次へ
全87ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング