が変人なんだよ。それから、いつでも酔っぱらっている先生だからそのつもりで」
お滝は喋《しゃべ》りつづけて、いわゆる道庵先生のところへ与八を出してやったあとで、またそろそろとお松の枕許に寄り、
「お前ほんとに済みませんがね、今月の無尽《むじん》の掛金に困っているものだから……」
お松の持っていた金は、もうこの気味の悪い伯母に見込まれてしまったのです。
四
どこへ行くのか知らん、机竜之助は七ツさがりの陽《ひ》を背に浴びて、神田の御成街道《おなりかいどう》を上野の方へと歩いて行きます。小笠原|左京太夫《さきょうだゆう》の邸の角まで来ると、
「わーっ」
いきなり横合いから飛び出して竜之助の前にガバと倒れたものがあります。竜之助も驚いて見ると、慈姑《くわい》のような頭をした医者が一人、泥のように酔うて、
「やあ失礼失礼」
起きようとするが腰に力が入らないおかしさ。やっとのことで起きて面《かお》を上げると、竜之助も吹き出さずにはおられなかったのは、いい年をしたお医者さんが潮吹《ひょっとこ》の面《めん》をかぶって、その突き出した口をヒョイと竜之助の方に向けたからです。
前へ
次へ
全87ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング