当ると保証も致さぬ代り、きっと外《はず》れると請合《うけあ》いも致さぬ。愚老は卦面《けめん》に現われたところによりて、聖人の道を人間にお伝え申すのが務め、当ると当らぬとは愚老の咎《とが》ではござらぬでな……」
 仔細《しさい》らしく筮竹を捧げて、じっと精神《こころ》を鎮めるこなしよろしくあって、老人は筮竹を二つに分けて一本を左の小指に、数えては算木をほどよくあしらって、首を傾けることしばらく、
「さて卦面《けめん》に現われたるは、かくの通り『風天小畜《ふうてんしょうちく》』とござる、卦辞《かじ》には『密雲雨ふらず我れ西郊《さいこう》よりす』とある、これは陽気なお盛んなれども、小陰に妨《さまた》げられて雨となって地に下るの功未だ成らざるの象《かたち》じゃ」
 老人は白髯《はくぜん》を左右に振分けて易の講釈をつづけます。
「されども、西郊と申して陰の方《かた》より、陰雲盛んに起るの形あれば、やがて雨となって地に下る、それだによって、このたびの試合はよほどの難場《なんば》じゃ、用心せんければならん。が、しかし、結局は雨となって地に下る、つまり目的を遂《と》げてお前様の勝ちとなる、まずめでたい
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