》が置いてある。
「易《えき》を立てて進《しん》ぜましょうかな、奉納試合の御運勢を見て進ぜましょうかな」
老人はこう申しますのを、文之丞は首を振って見せた、老人は再び勧《すす》めようともしません。
おりから坂の下より上って来たのは、かの机竜之助の一行で、同じくこの茶屋の前で立ち止まりました。
「お早い御参拝でござります、お掛けなすっていらっしゃい」
「休んで行こうかな」
竜之助が先に立って、一行を引きつれて、この黒門の茶屋へ入ります。宇津木文之丞は何気《なにげ》なく入って来た人を見ると、それは自分の当の相手、机竜之助でありましたから、ハッと気色《けしき》ばんだが、幸いに編笠《あみがさ》を被って隅の方にいたので、先方ではそれと気がつかぬ様子。
先刻の老人はまた首を突き出して竜之助の方に向い、
「易を立てて進ぜましょうかな、奉納試合の御運勢を見て進ぜましょうかな」
竜之助は老人の面を見て頼むとばかり頷《うなず》くと、老人は筮竹《ぜいちく》を取り上げて、
「そもそも愚老の易断《えきだん》は、下世話《げせわ》に申す当るも八卦《はっけ》当らぬも八卦の看板通り、世間の八卦見のようにきっと
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