、いつしか色が変って妙なものになり行くのです。
「お山の太鼓が朝風に響く時までにこの謎を解けよ」
という一言。それを思い出すごとにお浜の胸の中で早鐘《はやがね》が鳴ります。
その夜、竜之助は己《おの》が室に夜《よ》更《ふ》くるまで黙然《もくねん》として、腕を胸に組んで身動きもせずに坐り込んでいます。
人を斬ろうとして斬り損じたこと、秘蔵の藤四郎を盗まれたこと、そのほかに、考えても考えても、わけのわからぬものが一つあるのです。与八をそそのかして、宇津木のお浜を縄《なわ》にまでかけて引捕《ひっとら》えさしたのは何のためであろう。お浜が邸を出るまでは、そんな考えはなかったが、女が門を出てから、どうしてもこの女をただ帰せないという考えが勃然《ぼつねん》として起ったので――竜之助の心には石よりも頑固《がんこ》なところと、理窟も筋道も通り越した直情径行《ちょくじょうけいこう》のところと、この二つがあって、その時もまた、初めは理を説《と》いて説き伏せたところが、あとはまるで形《かた》なしのことをやり出した。
それでやはり女のことを考えてみています。
九
机の家に盗難のあ
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