と藻掻《もが》きつづけた。……と、おれは思うのだが、ともかくおれは大変感じやすかった。……そののち、おれは疑うことを覚えた。憎むことを覚えた。おれは因循姑息に犯された。この虫こそおれの寄生虫であった。そしておれを引込思案の壺の中へ封じこめてしまった。おれはその壺の中で侮辱を感じた。そしておれはおれの敵を見た。敵を感じた。猜疑心を養った。その壺のなかで。憎悪を育てた。そしておれは自分を愛しそこねた。
おれは何ものからも見棄てられたではないか、親友の青沼さえ、おれの身のほどを誤って、揶揄《からか》ったではないか。博士は意地きたなく侮辱した。おれは自分の躯を愛しそこねたために、自分で我が身を殺すのかも知れない。それにしても常に真実を考え、真実を思い……おれは常に真実を話した。しかしその真実はおれ以外の誰へも共通しないものであったかも知れない。おれは勝手に自分の真実を喋った。おれは自分の第二体、分身。おれは自分の数あるドッペルゲンゲルへ向って真実を話したのだ。親友の青沼さえ、あの偉大な博士でさえ、彼等はおれ自身であったかも知れない。あの敵でさえ、おれ自身に違いはないのだ。いや、彼等こそおれ自
前へ
次へ
全91ページ中88ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
富ノ沢 麟太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング