ムと呼ばれた哲学者の研究した、我々人類その他の生物及び無生物の音声、音響、即ち「声の行方」に関する論文――それから人の口の端によく言われている、「カアバスのカアレンダアス」や「カアマシャアストラ」や「十万白龍」――等その他数十冊の書籍を積み重ねてみた。これは一つには、屏風《びょうぶ》代りで風を妨ぐのに役だった――彼の部屋の空気は、これらのもので怪しく顫《ふる》えていた――そうして彼は、なお自分の手のとどく限りのところへ水差や煙草や鑵詰等を並べてみた。
 ―――――
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,  ,  ,
Itself,
by itself,
solely ONE everlastingly
and single
,  ,  ,   ,  ,  ,   ,  ,  ,
Ce grand malheur,
〔de ne pouvoir e^tre seul.〕
,  ,  ,
[#ここで字下げ終わり]
 時として彼の部屋は、故人の書籍から忍び出て来たと思える文字で、深夜のシャンデリヤのように奇妙に寂しく戦《おのの》きつつ輝いた――そうして彼はそれからの幽霊を相手にして楽みに耽った。
 そう
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