れにあの気の毒な少年は、彼自身の対象として、直面的に見、極く簡単にではあるが、かなり貴重な置地においてある。勿論それはあれだけの説明では足りない、と彼は考えている。しかしいくらかは何事かを訴えるだけの力は含まれていないこともない。それともそんなことは少しもないのであろうか。神のような心をもっているあの少年が、彼自身と同じくあらゆる機会を取り逃がしている。少年は何事をかなそうと考えている。家を逃げ出してサアカスへ加入させて貰うことを無想しているのかも知れない。少年は果して何を考えているのか。しかしウィリイは泣き笑いの生活で満足しているらしい。これは兎《と》に角《かく》として、彼は親友の言葉でかなり機嫌を悪くした。彼は親友をいままで見誤っていたのであろうか。しかし彼は親友の言葉を意地悪く受けいれてみたとしたところで、どうして悪かろう。そうして若しも彼が親友を欺いたとしても、彼自身の虚勢は本物の虚勢であったろうか。それが果して本物であったとするなら、それこそそれは、嫉妬の感情などを持つも恥かしい彼が、自分の親友に抱いた嫉妬の感情ではなかろうか。そうして彼は僅《わず》かばかりの考えと僅かばかり
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