風の味の外《ほか》はでそうにもない、それともそんな味さえ消えてなくなるかも知れない。焦点がなくなって。つまりやぶにらみになって……」
彼はいままでに思ってもみなかったことを言ってから、かすかに忍び笑いをした。それは彼自身のためにであった。そうして彼には、柄にもなく大仰なことを言ってしまったことが、劇しく後悔されはじめた。彼の言ったことは、すべて過失として後悔されはじめた。彼は出来るだけの機会を捉えて親んで来た所謂《いわゆる》イマジナティヴ・コンポジションが、たった一言で無惨にも蹴散らされたと思えば、それまでのことであるが、蜂の巣のように破れている頭を信じている自分が情なく感じられた。そうして彼は未だに彼自身の自惚《うぬぼ》れに酔うていないこともなかった。
そうしてあのコンポジションのうちに、ひょっこりと思いついたあの気の毒なウィリイこそ彼自身に外ならないではなかろうか。ところで、あんな筋の話は、所々方々、いたるところに捨ててあるものだ。それを彼はいかにも自分が作意したかのように言いふらした。彼は親友の気持を欺いてもいいと思うほど、彼自身の虚勢が大切であると考えていたのであろうか。そ
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