すぐれたようなふうをして……」


 彼はこう語り終って、空を見上げながら自分でも解らないことを低い調子で独り言していた。そうして彼等二人は、いままで思い思いの考えごとを楽しんでいたかのように、無言のままでしかも顔を隠し合いながら、淋《さび》れてゆく秋の庭を眺めていた。
「ペテロとサルフィユとの心理は一応|呑込《のみこ》めるが、話としてもその表現はイージーゴーイングだね、しかし大へんすばらしい思いつきだよ……」
 彼の親友青沼白心は、突然投げつけるように言って、折り立てた膝の間へ自分の顎《あご》を挟んで、庭の隅の方を※[#「目+嬪のつくり」、194−上−15]《みつ》めていた。
「思いつき……書けるかね?」
「ふむ、イマジナティヴ・コンポジションと言った方がいい、書くとするなら……」
「ふむ、しかしこれは、おれがいままでに見た映画のつぎはぎさ、本心を言うと。で、おれは(夢に見た映画)と題をつけておいたぐらいだ。形式についてもかなり作意したつもりだ。いま話したあのまま書くつもりだ。それにしても純然たる竊盗かも知れないが――くだらないテイマでね、うっかり書いてしまうものなら子供じみたモラル
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