鳴った――騒音のなかに、ベルは声高く鳴り響いた。
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大太鼓。小太鼓。喇叭《らっぱ》――クラリオネット。タンバリンはブリキのバネ仕掛の汽船のように震える。
アダムの父は後脚を空へ蹴上げる馬の背に威張っていた。いま、彼はミリタリズムの型に熱中している。
「猿!」
彼は剣を抜いた。百花燈に反射した一本の指揮剣は数千の瞳のなかへ閃《ひらめ》いた。彼は無言である。馬は鞭《むち》の響に一段と跳び廻った。その度に将軍の尻尾は服のなかから空へ踊り上った。
……………
「煙草」
「ポケットだ」
開らききらない娼婦の指にはダイヤが閃いた。
鯨波
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「ペテロ!」
「サルフィユ!」
二青年はレースの襞で白く縁どった青い上衣に赤い半ズボンを穿《は》いて現れた。彼等の剣は左の腰に佩《つ》ってあった。
鯨波
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青年二人は高く張り上げた綱の反対の両端に乗って弾動した。
ウィリイは微笑《ほほえ》んだ。
「おれの世界だ!」
彼は意味もなく空を見上げた。天幕の裏が波打っていた。彼は淋しかった。彼がペテロでもサルフィユでもなかったので――彼は騒擾《そうじょう》のなかに咳《せき》をした。
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