唄いますわ、唄いましょう!」
コールテーアは胸へ両手を組合せた。
「金は肉だ!」
青服は顔を歪《ゆが》めた。
「金は血だ!」
大工はパイプを銜《くわ》えた。
「金は呼吸だ!」
壁塗職人は口笛を吹いた。
「マコトノヨ、ヒトリノオナゴ……」
「嘘だ」
「昏倒せえ」
「地獄へ出てゆけ」
「マコトノヨ、ヒトリネミドリゴ……」
「豚の子」
「尻尾をちょんぎれ」
「ハハノウデ……」
「スカートが燃えるぞ」
「金髪をとれ、その鬘《かつら》だ」
「栗色」
「不快」
「金」
「血」
「肉」
「呼吸」
「ヒッス」
「ヒャア、ヒャア」
「ヒッス」
……………
女は男の前方へ腰かけて、靴下の穴をつくろうていた。灯は柱時計の下に点っていた。部屋は薄暗い。
「あたしのウィリイは……」
「何だと? 勝手にサアカスなどへやって」
男は銜《くわ》えたパイプを鼻の先で弄《もてあそ》んでいた。
「……」
「あいつは好くはならんぞ」
「神様、あの子、ウィリイを守り給え」
囁《ささや》く彼女の膝《ひざ》の上では、靴下の穴が大きくひろがっていた。
……………
「始めた!」
……………
鯨波
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ベルが
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