で互に言い交した言葉を、もう一度、胸のなかからカツレツの皿の上へ吐き出した。
「競争者、決闘だ」
「決闘? 競争者」
「ふむ」
「よし」
「決闘!」
「決闘!」
「今夜、客の前で――」
「客の前で――綱の上で――」
「フレンド・シップ・ダンスの時」
「フレンド・シップ・ダンスの時」
「真剣勝負」
「真剣勝負」
緑や赤の灯は、港町を飾った。舷燈は湾内の潮に浮動した。
場末のサアカスの木戸は開らいた。
ベルが鳴った――真鍮《しんちゅう》のベルであった。楽隊のはやしは子供等の足を調子づけた。
十五銭――サアカスの普通席。
子供等は、母の唇へ粗忽《そこつ》なキスをして、町の方へ走った。
娘等は戸口を去った。
夜は影をひいてひしめき合った。
母船を離れた大小のボートは、陸を目がけて夜光虫のように這《は》い寄った。「金貨のジャック」は娼婦の窓を見上げた。
「決闘!」
ペテロは、胸へ十字を切って、楽屋へ這入《はい》った。
「真剣勝負!」
サルフィユは、楽屋の入口で舞台を覗《のぞ》いてみた。
満員
鯨波
拍子
……………
「どうせ金で買われて行く流《ながれ》の身なんですもの
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