くかのように、一つの秘密の跡を逐《お》い廻していることであろう。若《も》しかしたら、その秘密は、おれの嫉妬《しっと》であるかも知れない。それにしてもおれなどには、最早嫉妬の感情などを持つだけの資格はない。おれはそれほどの罰あたりであるかも知れない。しかしおれは未だに過去の忘却の饗宴《きょうえん》の席へつれられてはいないのかも知れない。何故なら、このおれの執拗な抵抗を見てみろ!」と、彼は誰へ言うともなく呟いてから、彼自身を顧みて、この言葉が自分の気持の上だけのものであることを恥て怕《おそ》れながらも、優しく続けるのであった。「おれは真実悲観はしていたろう。そして無限に欠伸《あくび》をするほど草臥《くたび》れてしまった。しかしおれは絶望はしていない。おれはおれ自身で取りおとした自分の魂を新らしく探そうと彷徨《さまよ》うているのかも知れない。そしてそれに違いない。」彼は決定的に寧《むし》ろ言い含めるのであった。「それに違いはない。おれは産前のありとあらゆる精力を尽したかのように、何ものかを切望していた。それには先ず手近いところからと思って、いまさら言うまでもなく、一人の母親を、あの田舎のくす
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