稽《こっけい》な様子で解剖台の上へ転輾《てんてん》とするのではあるまいかと思うと、彼は自分の狡猾《こうかつ》な態度が呪《のろ》わしくなって来た。そうして彼は、かなりぼんやりした文句ででも、親友青沼はすでに自分の敵であると悟らせようとしたことが恥かしくなって来た。それに両眼を閉じて頬《ほお》を顫《ふる》わしている親友が気の毒でもあった。よし彼の言ったことが狡猾《こうかつ》とは言われないまでも、取るにも足らない憤恨の安売であった。言わば憎悪にはじまった復讐の態度であった。そうしてそれらは唾を吐きかけられるものでなければならない、同時に意義を求める人々にとっては笑うべきことであったろう。それこそ文字通りに彼自身が言った貪婪な悪魔の身振りに違いなかった。彼は彼自身をメィフェストやヨブに擬《なぞら》えようと無意識のうちに考えていたのであったと思えば興味がないでもなかったが、却《かえ》って肉体的の憂鬱《ゆううつ》を感じさせられる方が遙かに多かった。そうして彼は自分の手で仕掛けた罠に陥ったようなものであったと思えば、自慢の出来る話ではない。そうして彼はとうとう独り言を言うようにしかも何気なくちょっと
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