「巻狩りをするのか、困るよ。」
「君はどう考えた?」
「何を?」
「万事休す、そして生きた人間の魂を買収するのだよ。」
「誰の?」
「人間の……つまり確かな証拠を握るために……しかし多分その人間が、いや、その男が捕えられた時には、彼はすでに破産者になっているだろう――狼狽と擾乱《じょうらん》と滅亡とそして眼には見えない悲惨との犠牲者になっているだろう……二重の復讎《ふくしゅう》になって……」
「よし給え、君の言っていることは、僕には嚥込《のみこ》みかねるね、一たいそれは憤恨かね、それとも自己侮蔑かね……僕には解らない……君は何かへ対して挑戦でもしていそうだ。そんな健全でない自己嘲笑はよし給え……それとも皮肉かね……君は君自身で妙な秤で評価しようとしている……」
「そうだね、歪んだ秤だよ。」
「もういい加減のところで止《よ》すのだね、君はどうかしているのだ?」
「うむ、忘れるな、希望が湧いたのだよ。」
「希望?」
「いや、貪婪《どんらん》な悪魔……」と、彼は言いかけて、彼自身を顧みて見ようとする気になった。その時彼にはそんな衝動が感じられたのであった。そうして彼の言ったことが、ついには滑
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