青沼白心へ出した。彼はその文面が少し誇張しすぎていると思ったが、それでもいいと思った。何故なら彼の親友は、そのハガキを読んで苦笑したであろうから――殆《ほとん》ど笑うということを知らない親友を苦笑にしろ笑わせたということは、彼自身の悦《よろこび》でもあった。彼はそのことを予想してハガキを書いたのであった。彼はこのような男を未だ嘗《かつ》て友としたことがない。というのは、いろいろの意味で言うのであるが、――兎に角、この宿へ来る前、彼は少しは現金を持合せていた。それは大学ぐらいは普通に卒業出来るだけの金高であった。ところが、急にその持合せた現金が溶けてなくなるように、何処へかその姿を隠してしまった。彼は大へんなことになったと心に思いながらも、その行方を捜索しはじめたのであったが、どうしてもその見当がはずれがちであった。彼は警察へ訴えて見ようかとさえ思案したのであったが、その煩《わずら》わしさを考えて止《よ》してしまった。それにその証拠になるべきものは、何一つ残っていなかったと言ってもいい――しかしここにその証拠物件となるものがたった一つあった。それは彼自身の胸のなかに蓄えられていたその最初
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