学は、ヘーゲルに於ける理性の現実化の思想によって消化される。第二はバークレーの独我論(Solipsismus)である。大陸のライプニツの対蹠の位置にあったイングランドのロック(J. Locke)から始まる経験論は、ベーコン(F. Bacon)やホッブズ(Th. Hobbes)の唯物論の発展であったにも拘らず、バークレーの徹底的な唯心論を結果した。彼によれば存在するとは知覚されるということである。知覚の結合を外にして存在や世界はない、一切のものは観念(Idea)に過ぎないというのである。之は観念論の戯画として特徴的であるだろう。観念論をこの戯画から救け出したものはカントの先験的観念論(批判主義)であった。第三に今日有力な観念論を吾々は、ベルグソン(H. Bergson)の形而上学、フッセルル(E. Husserl)の現象学、新カント学派の価値哲学、ディルタイ(W. Dilthey)の生命哲学、などに於て持っている。今日の代表的な唯物論―マルクス主義哲学―は之等の唯心論と対峙し、之に対する批判を課題として課せられていると考えられる。
最後に、観念乃至意識は、知的なものと考えられる場合と意志的なものと考えられる場合とがある。前者は主知主義(Intellektualismus)の観念論であり、後者は主意主義(Voluntarismus)の夫である。プラトンを初めデカルト、ライプニツ、バークレー、カント、ヘーゲル、フッセルル等は前者にぞくし、ショーペンハウアー(A. Schopenhauer)、メヌ・ド・ビラン(M. d. Biran)などは後者にぞくする。そして、また主知主義は直観主義(Intuitionismus)に結び付いている。フッセルルやベルグソンがそれである。
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[#中見出し]唯物論 ユイブツロン 【英】Materialism【独】Materialismus【仏】〔Mate'rialisme〕.[#中見出し終わり]
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存在論の一つの立場で、唯心論と対立する(「唯心論」の項参照)。世界観としては理想主義に対立し、認識論としては観念論に対立する。世界観としては、理想が現実の必然的発展でなければならないことを強調し、もしそうでない理想をかかげる立場があるならば、夫はユートピアを夢想するものだとして斥ける。現実から出発する点に於て現実主義とも云うことが出来よう。この現実主義が不当に極端化されると併し、夫は現実との妥協主義又は物質生活の無条件的尊重主義ともなることが出来る。俗には往々唯物論という言葉をこの最後の意味に用いる。併し之は真正の唯物論とは殆んど何の関係もない。却って唯物論的世界観は、思想が希望に燃えている時や(ギリシアの自然哲学)、新しい理想に駆られる時(フランス啓蒙期の唯物論)にこそ、発生したのが事実である。認識論としては、唯物論は多く経験論(Empirismus)に結合したり(ホッブズ Th. Hobbes の場合)、感覚論(Sensualismus)に結合したりする(エルヴェシウス 〔C. A. Helve'tius〕 の場合)。(無論経験論や感覚論自身は唯物論ではない。ロック J. Locke の経験論はバークレー G. Berkeley の唯心論を結果したし、コンディヤック E. B. Condillac の感覚論はメヌ・ド・ビラン Maine de Biran の唯心論を結果した。)唯物論が之等のものに結合出来るのは、之等のものが実在論に帰着する場合に限る。認識論としての唯物論は―観念論に対する―実在論である。さてこのような現実主義的世界観及び実在論的認識論は、存在論としての唯物論の等価物でなければならない。
唯物論的存在論は一般に、物質を以て精神を説明する原理と考える。或いは同じことに帰着するが、物質が即ち狭義の存在だと考える。種々なる唯物論の相違は、この物質の概念の如何によって、又物質を以て如何に精神をも説明するかによって、与えられる。
古代ギリシアの哲学――人々は夫を古代ギリシアの自然哲学と呼んでいるが――は唯物論として始まった。タレス(〔Thale^s〕)に於ては存在の原理は水であった(尤もこの水は今は吾々の持つ水の概念ではないが)。それは何と云っても何かの意味の物質に外ならない。水は存在の原理であると共に、否あるが故に、又存在の生成の原理でもなければならぬ。存在の運動を与えるものも亦この水である。この物質は運動の動力を自らの中に持っている。人々はこの唯物論を物活論(Hylozoismus)と名づける。物活論的唯物論はギリシアに於ける代表的な唯物論者デモクリトス(〔De^mokritos〕)の単位物質―アトム―の思想となって現わ
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