R史(博物学)」と呼ばれている。
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[#1字下げ][#大見出し]3 『現代哲学辞典』[#大見出し終わり]


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自然科学
  (英 natural science, 独 Naturwissenschaft, 仏 science naturelle)
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[#1字下げ][#小見出し]一 自然科学の概念[#小見出し終わり] 自然科学とは社会科学から区別された一群の諸科学を指す。社会科学が人間の歴史的社会を研究対象とするに反して、自然科学は、この歴史的社会の自然物的基礎となり又その歴史的発達の先行段階である処の自然を研究対象とする。自然科学が或る一定の共通な研究方法に基くことを理由として、逆にこの一定の研究方法に基くものを凡て自然科学と呼び、之を之とは異った研究方法に基くものと考えられる文化科学に対立させる種類の見解は、色々の形で相当広く行われている(例えばドイツ西南学派)。併し之は科学の単なる研究主体側の主観に由来する研究方法だけを目標として科学を分類することを意味するので、一般に科学の、従って又自然科学の、特色を人工的なものの内に認めることを意味する。処が自然科学の特色は云うまでもなくその人為的な研究態度や観念上の観点に集中され得るものではない。自然科学はその研究の対象を自然とするのであればこそ自然科学の名に値いするのである。
 云うまでもなく自然という観念は多義であり、従ってこの言葉によって云い表わされる所謂自然なるもの自身が何であるかは単純には判明でない。人間や動物の心理現象や人文地理現象などは果して自然であるかないか、単純には断定出来ないというだろう。だが之は実は、最もプロパーな意味に於ける所謂自然と、自然ならぬ而も自然からの発展である処の人間史的社会との、中間領域又はその中間領域から抽象された諸断面のことであって、従って却って之によって自然なるもののプロパーな意義が明示されていると云うべきである。(哲学者が古来様々に考えて来たフュージスとかナトゥーラとかをこの際問題にする必要はないだろう。)今日の所謂自然科学が対象とする自然なるものがどういう領域のものを指すかは、寧ろ常識的に知れ亘っている。吾々はかかる所謂自然を頭の中心に置いて、この自然に関する多義な諸観念を整理することが出来る。つまり吾々人間の存在とその意識の成立とに関係なく運動する世界が広く自然なのである。その意味に於てこの自然は哲学的範疇としての物質と呼ばれてよいものである。――自然科学とは、であるから第一義的に物質と呼ばれるもの(第二義的以下に物質と呼ばれるものは沢山あるが)を研究対象とする科学である。
[#1字下げ][#小見出し]二 諸分科科学の関係[#小見出し終わり] 自然科学はその研究の対象である自然の種類に従って、即ち自然の夫々の発展段階に従って、分類される。第一に有機体を除く限りの無機界を考えることが出来る。(但しここでいう無機界とは所謂無機物の世界のことではなくて有機物質もそれが有機体の組織から離れてある限り無機界にぞくする。)有機界と無機界との区別は、自然科学が進歩するに従って段々不分明になって行くだろうと考える人が或いはあるかも知れない。併し実はそうではないので、之は例えばかつて有機物質と考えられていた尿素が無機物から無機的に製造されるようになった、というような場合と問題は根本的に異っている。(有機体は単なる有機物ではない。)有機体と無機物とを区別するものは生命現象のある無しである。原生動物を無機物から人工的に造り出すことは現在すでに不可能ではないが、之は一種の原始的な生命現象を生じるような無機体の高度の結合を発見出来たというまでであって、生命現象が無機界現象に還元されたことを意味するものではない。生命現象はその生物学的解釈、即ち機械論又は活力説による解釈の当否に拘らず、生命現象であって、之と無機現象との区別がこの解釈の如何によって消滅するのではない。少くとも生命現象と無機現象との間には根本的な区別があるのであって、生命現象の一つの特徴である有目的的に見える行動的運動現象が、仮に単に極めて高度に複雑な原因に基く機械的運動に他ならぬとしても、この高度の複雑さそのものが、生命現象を他の無機現象から区別する本質的な契機なのである。
 さてこの無機界の自然を対象とするものが物理学である。尤も常識的に云えば化学現象と物理現象というように、物理学は化学から区別されているが、夫は全く常識的な便宜に基くことで、化学プロパーの発達は実は、物理学を具体化することによってみずから本来の物理学に帰着しつつあるのが周知の事実である。物理学と化学プロパーとは今日では本質上全く同一の自然科学である。特に無機自然界の基
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