驕Bジャーナリズムは例えば文学とか法律とかが古来の各歴史的社会に共通な現象であるように、一つの共通な社会現象であって、之を表現報道現象[#「表現報道現象」に傍点]と呼ぶことが出来る。単に表現するだけではジャーナリズムではないが、併し単に報道(公示・通信)するだけがジャーナリズムではない。報道の意図の下に表現することがジャーナリズムである。この意味に於ては文学も哲学も一般言論と同じくジャーナリズム的意味を有っている。教育も亦之と同じにジャーナリスティックな機能を果す。この点は極めて明かで、主に学校乃至大学に於ける教育に就て云えば、講義・演習・ゼミナール・講読・其他のアカデミー的形態自身がすでにジャーナリズムの一部分であることを示している。此等は演説・説教其他と並ぶ一連のものであって、観念を表現し且つその表現を公示通達する形態に他ならぬからである。近代資本主義的学校教育ではこのジャーナリズム機能が特に著るしく商品生産の形式を取っていることは云うまでもない。
 【教育的機能】  併し最も重大なのはジャーナリズムの教育機能である。この際主として社会教育を考えるべきであるが、近代はこの社会教育が主として新聞・雑誌・単行本・冊子・ラヂオ・レコード・ステージ・スクリーン等ジャーナリズム・プロパーの乗具を通して与えられている。ジャーナリスト(記者・寄稿家・評論家――これは夫々別な規定である)は学校教育者と一般文筆家に跨って存在し得るが、学校乃至大学の教育にこの社会教育の主力たるジャーナリズム・プロパーを利用することは今日まで決して充分だとは云うことが出来ない。その原因の一つはブルジョア・ジャーナリズムが学校乃至大学に於てのような目的意識的な教育機能を有たずに殆ど全く社会に於ける自然発生的な所産であることにある。つまり市民的学校教育はブルジョア・ジャーナリズムをさえ敬遠しなければならぬほど、社会に於けるジャーナリスティックな使命から浮き上って行くという法則を持っていることが判る。
 ブルジョア・ジャーナリズムは之まで多くの場合、一つの矛盾を含んでいる。イデオロギーをその商品とすることによって、ブルジョア・ジャーナリズムはその本来の社会的使命であるブルジョア・イデオロギーを或る限度に於て犠牲にせざるを得ない。ここに各種の反ブルジョア的(自由主義的・社会主義的)イデオロギーの表現報道の余地が残される。ここに現代資本主義的ジャーナリズムの特有な教育機能の一応の進歩性が横たわる。だが之は無論まだ所謂プロレタリア・ジャーナリズムではない。ソヴィエト・ジャーナリズムは進歩的教育機能に於て著るしく発達していると見られている。


進化論 のうち
 【進化論と社会学】  生物学及び古生物学・地質学等の博物学(自然史)は十九世紀の後半に著るしい進歩を遂げたが、その結果第一に発達したものは社会の生物学的有機体説である。一般の社会有機体説または全体説は旧くから広く行われていたが、それが特に生物学的な実証的根拠を与えたように見える。リリエンフェルト P. v. Lilienfeld(1829−1903)・シェフレ 〔A. E. P. Scha:ffle〕(1831−1903)・ヴォルムス R. Worms(1869−1926)・ノヴィコフ J. Novikov(1849−1912)等によれば、社会現象は一種の生物的有機体の現象に他ならぬ。だがこれは結局、社会を生物体に類推したものに過ぎない。第二は人種論的社会理論である。人種・淘汰・遺伝等が社会の最大な決定要因だというのであってゴビノー J. A. de Gobineau(1816−82)やラプージュ V. de Lapouge(1854−1936)等が之を代表する。この理論によると世界の人種の間には先天的に優劣の差があるのであって、今日の人種的排外主義の理論的根拠の有力な一つとなっている。だが元来、社会関係がこのような生物的関係に還元出来ないことは論を俟たない。第三は生存闘争(生存競争)に関する生物学的理論を任意に社会機構にあてはめる場合であって、ノヴィコフやヴァッカロ M. Vaccaro が之を代表する。今日社会ファシズムの一支柱となり好戦主義の根拠となるものの一つである(例えばヘッケル)。だがクロポトキン P. A. Kropotkin(1842−1921)やバジョット W. Bagehot(1826−77)の相互扶助論が指摘しているようにこれは生物界の事実にも合わないし、又元来ダーウィン説の非科学的な濫用に他ならない。
 進化論・ダーウィン説の科学的核心は、自然界の歴史的発展の思想に実証的な根拠を与えたことであるが、之を最も正当に社会理論に適用したものはマルクス主義に他ならない、その意味で唯物史観は「社会の自
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