念でなければならない。こういうと又文学者達は批難して云うであろう、人々は何も改めて[#「改めて」に傍点]そのような概念を借りなくても、すでに机と机の表象との区別は明らかに知っているのではないかと。併し之は吾々の言葉に対する批難ではなくして却って保証であるに外ならない。何となれば、この二つのものの区別を明らかに知っていること、それこそ吾々の云おうとする空間概念なのであるから。けれども又云うかも知れない、人々は何もかかる概念に於て理論的にこの区別を知っているのではなくして単に実践的に之を把捉しているのであると。正にその通りである、処で一般に吾々の概念は実践的であり得なかったであろうか――前を見よ。今人が机に坐って手紙を書こうとする時、その机が表象されたものであるか実在であるかの区別が、その人の実践を決定する力を持たねばならない。空間概念とはこの実践を決定する力となることの出来るものを指す(紙の上に――空間的に――描かれた机は、空間的存在であるにも拘らず、実在する机ではないと云うであろうか。併し描かれた机は元来机ではない。机の表象は「机」の表象であり、描かれた机の表象は「描かれた机」の表象で
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