の「ο」にアクセント記号(´)]に外ならない)、場処とは限界[#「限界」に傍点]である。という意味は一定の境界を以て包むこと、それが場処である**。これも亦確かに存在性を云い表わす概念には相異ないであろう。場処は「此処」「彼処」を以て呼ばれる外はない、処が「此処」「彼処」は前に示された通り「何処」の範疇に外ならない。であるから場処とは要するに範疇[#「範疇」に傍点]「何処」に対応[#「対応」に傍点]する処の存在[#「存在」に傍点]を云い表わす言葉なのである。そしてこの存在とは無論空間的存在性でなければならない。それ故空間が場処として最初にとり出されたことは至極当然であるであろう。併しながら、範疇「何処」が範疇として成り立つために空間概念の理解が予め必要であった通り、之に対応[#「対応」に傍点]して、場処が場処として理解されるためには又予め常識的空間概念の理解が必要でなければならない。場処が最初に最も直接にとり出され得るということは、それが常識的空間概念であることを、少しも保証するものではない。場処は空間に於ける[#「空間に於ける」に傍点]場処である。場処を占める――限界する――ということは空間に於て[#「空間に於て」に傍点]場処を占めることに外ならないであろう(場処 locus と離すことの出来ないものは定位[#「定位」に傍点] localization である)。かくて場処という言葉も亦空間概念を正当に吾々に齎すことは出来ない。第三に空間概念は位置[#「位置」に傍点](situs)として現われる。位置が空間概念にぞくすることを何人も承認しなければならないと共に、又この言葉が空間概念を代表し得ないということもあまりに明らかであると思われる***。さてかくして以上三つの名辞は何れも空間そのもの[#「そのもの」に傍点]を云い表わし尽すことは出来ない。残るものはただ空間[#「空間」に傍点](Spatium)であるであろう****。以上の四つのものはスコラ哲学に現われた空間の代表的名辞であることを茲に注意して置こう。
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* アリストテレスの範疇の一つが之である。
** 「故に限界されたるものの直接の不動の限界、かくの如きが場処である。」(Physica, 212 a. 21 f.)爾後空間をかかる意味に於ける場処として理解することはスコラ哲学を一貫する本流であった。例えば Gent, Die Philosophie des Raumes und der Zeit 参照。
*** 位置も亦アリストテレスの範疇の一つである。位置[#「位置」に傍点]と空間[#「空間」に傍点]との概念規定の相異は、位置解析[#「位置解析」に傍点](Analysis Situs)と幾何学[#「幾何学」に傍点]との相異から間接に想見することが出来るであろう。
**** プラトンのティマイオスに於ける空間(χωρα[#「ω」はアキュートアクセント付き])――所謂「プラトンのヒューレー」、〔prima:re Materie〕 ――はかかる空間と考えられる。これが限界されたるアリストテレスの場処の如きものではなくして単なる延長で[#「単なる延長で」に傍点]あること、及び単にアナロギーや譬喩によって空間と呼ばれたのではないということ、その考証に就いてはボエムカーの研究を信じてよいであろう(Baemker, Problem der Materie in d. griechischen Philosophie, S. 174−5 及び S. 181 参照)。
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さて最後に挙げた四つの名辞が何れも空間概念の夫々一つの特徴のみを指し示す処のものに過ぎないことを、吾々は見た。このことからして次のことが帰結して来る。空間概念は、以上に掲げられた名辞[#「名辞」に傍点]に於てその一部分を云い表わされるような夫々の事態[#「事態」に傍点]を凡て[#「凡て」に傍点]含む処の、或るものでなければならない。そして名辞の分析[#「名辞の分析」に傍点]は今之を試みた。事態の分析[#「事態の分析」に傍点]が次の仕事である*。処で已に述べた処に基いて、この事態は空間概念のかの存在性である外はなかった。そして空間概念は――吾々は何回でも繰り返す――常識的概念であった。故に常識的空間概念の存在性の事態の分析、之が次の仕事になる。というのは、単なる事態の分析ではなくして存在性の事態の分析であり、又存在性という名辞の分析ではなくして存在性という事態の分析である。さて併しこの分析は例えば物理学的或いは幾何学的な、専門的[#「専門的」に傍点]知識を借りてそれに基いて行なわれることは出来ない(尤もこれ等の知識を参照する便宜を利用することは望ま
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