でもなく又 Wirklichkeit それ自身でもない、そうではなくして Dasein が正にそれの性格でなければならない。向に注意したように存在が実在それ自身であるのではない、併し存在は実在の根本的な契機である、そしてその意味に於て存在は又実在である。空間はそれ故この意味に於て又実在であるという言葉も許されるのである。即ち空間は実在ではないにしても、実在性を有たなければならない処のものなのである。或る人々は空間の実在性を信じないかも知れない、けれども恐らくその人々は実在性の下の事実[#「事実」に傍点]を理解しているのであろう。吾々の空間は無論事実ではないと云う意味に於ては実在的ではない。又或る人々は空間の実在性を吾々の欲する以上の程度に主張するかも知れない。恐らくそのような人々に向っても亦吾々は存在乃至実在と事実との今の区別を示せば充分であるであろう。この意味に於て――そしてただこの意味のみ[#「のみ」に傍点]に於て――空間が実在性を有つことは次のことによって最も明らかに見られるであろう。表象されたる空間――空間表象[#「空間表象」に傍点]――の問題がそれである。吾々が単に或る存在を表象[#「表象」に傍点]しただけで、たといそれが実在[#「実在」に傍点]する存在ではないにせよ、すでに空間概念がそこに横たわるように思われる*。そうすれば空間は明らかに実在的ではなくして非実在的――例えば表象――であると考えられそうである。処が実在しないものに関する空間表象――ケンタウロイ表象――も決して実在的でないのではない。なる程ケンタウロイの形を有った、その事実[#「事実」に傍点]を備えたものはないであろう。けれども凡そケンタウロイが形を有つと表象することはそれが実在の空間に於て形を取って存在[#「存在」に傍点]すると表象することしか出来ない筈である。例えば吾々は之をスヴェーデンボリの天国に於て表象するのではない**。ケンタウロイは実在しないが、もし実在するとすれば[#「もし実在するとすれば」に傍点]、このような形をとって存在するであろう。ということがとりも直さずケンタウロイの表象でなければならない。それは事実としては非実在的である、併し存在としては実在的である。かくて空間表象の空間は実在的である。空間が表象されるということ――表象に還元(吾々の意味に於て)されるということ――は空間の実在性(存在)としての性格を覆うものではない。況して空間が表象である――空間の性格は表象という意識である――などと云うことにはならないことを注意して置こう。さてこのようにして空間は存在の性格にぞくす。処が現象学的還元はこの存在の性格を否定した。故に又空間の性格も之によって否定されないわけには行かない。即ち茲に於ては空間の性格は意識の性格によって優越される。かくして空間の性格は存在[#「存在」に傍点]であって従って意識[#「意識」に傍点]ではあり得ないことが結果した***。空間を表象として、知覚として又直観として理解することは少しも不都合ではない。ただ併しそれは決して空間の正当[#「正当」に傍点]なる概念ではない。何となればそれ等のものは空間の性格・優越を理解せしめる代りに空間の任意の一つの特徴に於ける還元性――吾々の意味に於ける――を云い表わすに過ぎないから。
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* 例えばエールリヒ、前掲書 S. 103 参照。
** 「天国に於ては一切の物は吾々の世界に於けると全く同じに空間に位置を占める。併し天使等は場処とか空間とかの観念を持たない。……霊界の場処の変化は状態の変化に外ならぬ。何となれば茲では場処の変化は凡ての心の状態の変化によって作用されるのであるから。……かくして接近は心の状態の類似に、遠隔はその相異に外ならないことは明らかである」云々(Swedenborg, Heaven and Hell, §191−3.)。
*** 吾々の概念がそうあったように、もし意識が又は現象が無性格[#「無性格」に傍点]であるならば、問題は全く別になるであろう。
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空間の性格は意識ではないから、意識の性格に於て現象を理解する現象学的還元によって、空間は本来[#「本来」に傍点]の問題として提出される機会を失って了う外はない。無論この場合、空間が全く問題になることが出来ないなどと云うのではない。却って空間はすでに吾々が見たように、殆んどどのような立場・方法に立っても常に何かの形態に於て問題となり得る性質を持っていた。ただ空間概念がその本来の問い方に於て、空間自身の要求する問題提出の仕方に於て、更に云い換えるならば、空間概念の性格に従って、問われる動機を、現象学的方法は不可能ならしめる理由があるのであった。そ
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