し、支配し、併呑する。それであればこそ机に腰かけることは誤りであり、その日の新聞を以て物を包むことは間違いであると云うことが意味を有つことになるのである。処が他方に於て机は腰かけ得る性質を持つが故に、一般に腰かけ得るものの内に列することが出来るであろう。腰掛ばかりではなく火鉢、書架、棚、など凡そ腰かけ得るものは、机と同じ同属として並ぶことが出来る。新聞紙は包み得るものとして風呂敷ばかりでなく、毛布、羽織、などと同列することが出来る。そればかりではない、机は木として新聞は紙として夫々の entities にぞくする。人々は之を否定しようとは思わない、それにも拘らず、机の性格は机であり、新聞の性格は新聞である。凡そ総てのものはこのようにして適当なる任意のものに還元[#「還元」に傍点]され得る。それにも拘らず還元されても性格の優越は失われない。還元性[#「還元性」に傍点]と優越性[#「優越性」に傍点]とは別である。吾々は念のために社会的な一例を引こう。国民皆兵であるならば軍人でない国民はないであろう、国民は凡て軍人に還元される、けれども総ての国民が軍人という性格を有つのではない。軍人を以て任じ得るものは特殊の地位の人々だけである。他の人々は還元性に於ては軍人であるが優越性に於ては軍人ではない。この場合還元性と優越性との混同は、事実一つの社会的誤謬として知られているであろう。次にこの意味に於て或るものに還元され得るということは、その或るものから構成[#「構成」に傍点]されているということではない。現に吾々の概念は確かに還元性を有っている、一切のものは概念に還元される、商品は商品概念[#「概念」に傍点]であり、某は某概念[#「概念」に傍点]である。然るに概念は構成性[#「構成性」に傍点]を持ってはならない筈であった。かくして構成性[#「構成性」に傍点]と還元性[#「還元性」に傍点]とも亦別である。処で次に、構成性を有つものは必ずそれに基いて優越性を有つ。構成的[#「構成的」に傍点]概念は現に論理的[#「論理的」に傍点]という性格を――優越性を有った。之に反して優越性を持つもの必ずしも構成性を有つとは限らない。というのは構成性が始めから問題となり得ない場合に於ても、――何となれば概念とか判断とか意識とかが問題となる特殊な場合に限って構成性は問題となることが出来る、――性格はなけ
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