行なわれた処で、それであるからと云って常識的概念になるのではない。又たとい普通一般に行なわれなくても、或る普通一般に行なわれているものがそうある筈である処の概念はなお常識的概念である。あまり行なわれないということが専門的概念の資格とならないと同じに、普通行なわれるということが常識的概念の資格とはならない。元来或る一定の概念が常識的であり他の一定の概念が専門的であるとは限らない。同一の概念も常識的概念として又専門的概念として理解される筈であった。尤も或る概念はより普通に[#「普通に」に傍点]専門的概念として通用し、他の或る概念はより普通に[#「普通に」に傍点]常識的概念として通用する(普通性と日常性との無関係を注意せよ)。それ故現に吾々は「概念」に於ては術語(専門語)としての「概念」から、「理解」に於ては日常語としての「理解」から出発した。併し両者は何れも日常語(常識的概念)であると同時に専門語(専門的概念)であり得た。かくて吾々の常識的概念は普通性[#「普通性」に傍点]を持つのではなくして日常性[#「日常性」に傍点]を有つのである、――概念は一般に与えられてあるものではなくして求められ発見されるべきものであった、日常性は其処に成り立つ。
 さて常識的概念は専門的概念に較べて、その歴史社会的成立に於て(性格と動機とに於て)、より根柢的でなければならない。勿論専門的概念は或る事物を把握する点に於ては常識的概念よりも根柢的であるに違いない。もしそうでなければ専門的概念としての資格を欠くであろう。併しそれは歴史社会的成立に於て根柢的であることとは別である。成立[#「成立」に傍点]に於ては常識的概念はより根柢的でなければならない。専門的概念は常識的概念の地盤から派生する[#「専門的概念は常識的概念の地盤から派生する」に傍点]。処で吾々は常識的概念だけを独立に分析することが出来る。であるからまず常識的概念の分析を独立に行なった上で、それに基いて夫に対応する専門的概念の分析を行なうことが、概念の性格と動機とに忠実な分析の手続きの順序でなければならない。この意味に於て常識的概念は常に基礎概念[#「基礎概念」に傍点]であり、専門的概念は常に上層概念[#「上層概念」に傍点]である。

 最後に此迄の結論を繰り返えそう。概念[#「概念」に傍点]は常に理解[#「理解」に傍点](把握[#「把
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