性格自身は消滅しなければならないであろう**。なる程吾々はこの世界を無視するのではない、却ってそれを現象の一部分として採用するのではある。けれどもこのような現象の一部分は自然的という今の性格を有つのではなくして正に現象的という性格を有たされなければならないであろう***。それ故この還元は以前にあった性格を他のものに還元することに外ならない。即ちこの還元性は以前にあった処の性格の有つ優越性を否定する処の還元性でなければならない筈である。他の性格の優越性を否定するものは一般にそれ自身又優越性でなければならない。故にこの場合の還元性とは実は一種の優越性なのである。自然的立場に立つ時、ものの有った処の性格は、現象学的方法[#「方法」に傍点]を通じて、現象の性格によって優越される。処が吾々が已に用意しておいた処の還元性は優越性であることは出来ない筈であった。前の場合に於ては或るAなる性質に還元されることによってBなる性格が失われる憂いはなかった。然るに今の場合に於ては、現象に還元されることは自然の性格を失喪することである。それであるから、現象学に於ける還元性は吾々の所謂還元性ではない、それは優越性である(還元することが何故優越することでなければならないか。併しそれであればこそ現象学的方法[#「方法」に傍点]であるのではないか。方法としての還元は、その方法の優越が主張される限り、単なる還元ではなくして還元による優越を意味せずにはいられない、それは当然であるであろう。それ故この還元によって――即ちこの方法によって――かの除外されるべき性格によって提出の動機を与えられる処の一群の問いは、除外される、その問いという働きを停止されるであろう)。さて還元が優越であれば優越されるべき以前の性格を優越する筈の新しい性格が必要となる(之によって、以前の性格によって提出される理由のなかったような一群の新しい問いが提出されるということも生じて来るであろう)。還元とは以前の性格の失喪であり、新しい性格の導入であることを記憶する必要がある。
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* 〔Husserl, Ideen zu einer reinen Pha:nomenologie und pha:nomenologischen Philosophie, S. 113〕 及び S. 59 参照。
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