持つというのである。
 だがこの階級の歴史的優位はそれだけでは今の場合まだ何物でもない。階級[#「階級」に傍点]のこの歴史的優位[#「歴史的優位」に傍点]が階級イデオロギー[#「イデオロギー」に傍点]のイデオロギー的[#「イデオロギー的」に傍点]優位として現われない限り、今の場合の問題にはならない。処で実際この階級の歴史的優位は、この階級の――主観的な――利害の追求が終局に於て社会自体の――客観的な――利害に一致すると云うこと、それが自己の実践[#「実践」に傍点]及び観念[#「観念」に傍点]の客観的可能性[#「客観的可能性」に傍点]と一致すること、によって示される。だからこの階級の階級イデオロギーは又、この階級の――主観的な――利害に相応することによって又社会自体の――客観的な――利害に一致し得ることがその特色となる。主観的な意欲が客観的な条件を充たすのである。だがそういうことが取りも直さず、真理[#「真理」に傍点]ということではないか。之がこの階級のイデオロギーのイデオロギー的優位[#「イデオロギー的優位」に傍点]である。それはもはや階級的偏見[#「偏見」に傍点]や階級の主観性[#「主観性」に傍点]から来る虚偽意識[#「虚偽意識」に傍点]などではない、却って正に之こそが、生きた真理意識[#「真理意識」に傍点]なのである。
 イデオロギーが虚偽意識となるか真理意識となるか、主観的偏見であるか客観的な洞察であるかは、全く、それが如何なる階級[#「階級」に傍点]のイデオロギーであるかから決定されて来る。歴史的社会の範疇である階級が、意識の論理的範疇である真理・虚偽の決定者だったのである。――歴史的社会的存在[#「歴史的社会的存在」に傍点]は論理[#「論理」に傍点]を決定する*。
[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
* 私はこのただ一つの一般的な命題を証明するために『イデオロギーの論理学』(鉄塔書院)【本巻所収】を書いた。
[#ここで字下げ終わり]

 一方の階級イデオロギーに立てば――主観的及び客観的利害の意識を通じてさえ――真理が発見されるのであり、之に反して他方の階級のイデオロギーに立てば真理は――主観的利害の意識などに妨げられて――蔽い匿されて了う。真理と虚偽との中から真理を選択させるものが、プロレタリアの階級意識[#「階級意識」に傍点]なのである。階級性[#「階級性」に傍点]が真理[#「真理」に傍点]を選ばせる。――だが、そうは云っても階級性そのものが真理を成り立たせるのではない、客観的[#「客観的」に傍点]真理は主観的[#「主観的」に傍点]な階級性を超越して通用しなければならない。尤もそう云っても、単純に機械的に、真理は客観的でなければならず之に反して階級は主観的に過ぎないなどと、考えることは許されない。問題は、主観的な階級が或る場合何故客観性[#「客観性」に傍点]を有つことが出来又有たねばならぬかということの、具体的な弁証法的な理解にあるのである(例えば自然弁証法に於て、自然[#「自然」に傍点]の客観性と階級[#「階級」に傍点]の主観性とを無媒介に対立させて、之かあれかを問うことなどは、独りよがりな饒舌家がしそうなことである)。
(プロレタリア)イデオロギーの――主観的な――階級性[#「階級性」に傍点]が論理上の客観性[#「客観性」に傍点]を持ち得また持たねばならぬということは、社会の持つ歴史的必然性[#「歴史的必然性」に傍点]からの直接な結果に外ならない。歴史的社会がその内的必然性によって是非ともかくかくに運動せねばならぬという関係それ自体の構造が、実はやがて真理というものの構造に外ならない。歴史的社会にこの歴史的必然性があるからこそ、それは自然史的[#「自然史的」に傍点]に分析されることも出来る。所謂「歴史的必然性」とは、一種の自然必然性[#「一種の自然必然性」に傍点]に外ならない。
 でイデオロギーの真理性は、歴史的社会の――一般的に云えば併し自然[#「自然」に傍点]の――必然的運動機構の、反映だったのである。この反映を実現する手段として、階級が、階級性が、横たわる。云うまでもなく、この階級乃至階級性の媒介過程は、イデオロギーが歴史的社会に就いての意識であるか、それともより根源的な所謂自然に就いての意識であるかによって、その段階を異にする。自然科学のイデオロギー性に於ける階級性は、社会科学の夫に較べて、著しく低い段階に位置する。だがそうであるからと云って、自然科学のイデオロギー性乃至階級性を苟にも無視して良いと考えるものがいるとしたら、それは知らず知らずに、自然自体に対する――例えば夫と社会との連関というような点に就いての――弁証法的理解を怠った者だと云わねばならぬ。
 かくてイデオロギーは、単に社会の上
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