フ形而上学的[#「形而上学的」に傍点]な超越の結果であったために、依然として個人的な意識の範疇の外へ出ることが出来なかったが、前者の場合は之と異って、個人的意識が実際に超個人的な意識にまで超越したと、一応は見られねばならぬのである。
凡ゆる意味に於ける文化[#「文化」に傍点]、広く理解された学術や芸術、又同じく広い意味での道徳や宗教まで入れて一切の文化は、従来こうした超個人的な意識という範疇によって理解され又取り扱われて来た。歴史主義[#「歴史主義」に傍点]や歴史哲学[#「歴史哲学」に傍点]、又文化哲学[#「文化哲学」に傍点]や文化社会学[#「文化社会学」に傍点]は、そうした超個人的意識の内容に関する学に外ならない。個人的意識[#「個人的意識」に傍点]は今や歴史的意識[#「歴史的意識」に傍点]に改変される。
併し従来の所謂「歴史哲学」――それはドイツ観念論の嫡出子である――は、観念論的歴史観[#「観念論的歴史観」に傍点]を以て貫かれているのを特色とする、人々はこの点に注目せねばならぬ。だから又そういう「歴史哲学」の根本概念としての歴史的意識[#「歴史的意識」に傍点]も亦、おのずから観念論的に理解されるべき大勢の下に立たざるを得ない。それは併し取りも直さず、個人的意識の範疇によって歴史的意識が理解されねばならぬのが大勢だ、ということに外ならぬ。――だから、歴史的意識は元々個人的意識から超個人的意識への超越のために持出されたものであるにも拘らず、元の個人的意識を本当に超越して了っては結局行き処を持たなくなり、戸まどいせざるを得なくなる。そういう破目に立たされる。
個人的意識から超個人的意識へのこの歴史哲学的飛躍[#「歴史哲学的飛躍」に傍点]は、前の形而上学的飛躍[#「形而上学的飛躍」に傍点]と、結局の結果に於ては、大差がない。「歴史哲学」は実際、つまる処歴史の形而上学[#「歴史の形而上学」に傍点](或いは又社会の形而上学)にまで行きつくべきものなのであった。
本当の歴史的意識――超個人的意識のそういう一種の規定――の概論は無論、そのような形而上学的[#「形而上学的」に傍点]な意識の概念であってはならぬ、それは取りも直さず歴史的な[#「歴史的な」に傍点]意識の概念でなければなるまい。だが、歴史的ということは同時に又社会的[#「社会的」に傍点]ということでもあるのを忘れてはならないのである。実際「歴史哲学」・歴史主義・「文化哲学」、又「文化社会学」さえが、その歴史[#「歴史」に傍点]の概念を、そして又その社会[#「社会」に傍点]の概念をさえ、決して充分に社会的規定[#「社会的規定」に傍点]の下に照らし出してはいない。それであればこそ此等の科学が、要するに「歴史哲学」・歴史主義・「文化哲学」・「文化社会学」等々であって、それ以上のものではあり得なかったのである。
超個人的意識はだから、今や単に「歴史的意識」ではなくて更に同時に、社会的意識[#「社会的意識」に傍点]でなければならなくなる。――意識が依存する処の存在、意識を規定する処の存在、それが単に歴史[#「歴史」に傍点]ではなくて更に又社会[#「社会」に傍点]でなければならなくなったわけである。それは純粋自我とか神性とかいう形而上学的存在ではなく、――又歴史哲学的な――「歴史」というような半形而上学的な存在でさえなくて、正に歴史的社会[#「歴史的社会」に傍点]と呼ばれる存在でなければならなくなった。――歴史的社会が意識[#「意識」に傍点]を決定する、意識は歴史的社会に依存する、意識は歴史的社会に於ける[#「に於ける」に傍点]一つの特殊な存在である。それは社会的意識[#「社会的意識」に傍点]である、之こそが本当の超個人的意識[#「超個人的意識」に傍点]なのである。
そう云っても併しまだ規定は根本的には不充分である。社会的意識――この超個人的意識――はもはや全く個人的意識[#「個人的意識」に傍点]ではないにも拘らず、やはりまだ個人主義的に取り扱われるのが、之までの伝統であるように見える。と云うのは、社会的意識は社会心理学[#「社会心理学」に傍点]にとっての対象であるが、この社会心理学なるものが、全く個人心理学からの類推か拡大かに帰着するのであって(ル・ボンの『群集心理学』やマクドゥーガルの『社会心理学』を見よ)、結局個人として個人のもつ意識から出発して社会の又は社会人の意識を取り上げようとするものに外ならないからである。だからここでは社会的意識が、まだ殆んど社会[#「社会」に傍点]自身の契機からは問題とされずに、依然として意識[#「意識」に傍点]の契機から、即ち又個人的意識の契機からしか取り上げられていない。で意識が、歴史的社会の存在に依存し、夫によって規定されるなどという
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