ュ、進化論がマルクス主義的唯物史観――コンミュニズム――と連帯関係にあることを注意すれば、もっと明らかに判るだろう。クロポトキンも亦生物学的認識から出発する。古典的社会学がその生物主義によって促進されたのも事実だろう。遺伝学――獲得質遺伝の問題――とか優生学とかは、極めて強い政治的・社会的な特徴を有っている。自然科学の内で最も露骨にイデオロギー性――階級性――を有つものは生物学なのである。
 この点から必然的に出て来ることであるが、生物学は数学や物理学に較べて、著しくジャーナリスティックな性質を表わすことが出来る。だから又、そこではアカデミズムとの対立が屡々重大な関心事をなすのである。G・フロイトの精神分析学――フロイト主義――は、生物学が、医学や心理学との連関に於て、云い表わされたものに外ならないが、之は今ではジャーナリズムを支配する一つのイデオロギー・思想であって、文学者達さえが之を好んで口にすることを忘れない。処が固陋な或いは慎重なアカデミズムの上では、フロイト主義は必ずしも科学的信用[#「信用」に傍点]を有っているとは限らないように見受けられる。吾々はこの一例に於ても生物学イデオロギーに於ける、ジャーナリズムとアカデミズムとの対立を見ることが出来るのである。そして大切なことは、こうした科学は、単にアカデミズムを通してばかりではなく、又ジャーナリズムをも通して、恐らく初めて科学的発展[#「科学的発展」に傍点]を有つことが出来るだろうという点である。

[#3字下げ]三[#「三」は小見出し]

 最後に吾々は社会科学[#「社会科学」に傍点]のイデオロギーに就いて語らねばならぬ。蓋し科学に於けるイデオロギー性――階級性――が最も顕著に現われるのは、恰も社会科学に於てであるのだから。
 社会科学に於けるイデオロギー性・階級性の特色は、それがブルジョア社会科学[#「ブルジョア社会科学」に傍点]とプロレタリア社会科学[#「プロレタリア社会科学」に傍点]という、異った二つの体系[#「異った二つの体系」に傍点]として対立するという現象の内に見られる。人々の単純な考え方に従えば、科学はどんな科学でも真理の体系でなければならず、そして真理はプロレタリアにとってもブルジョアジーにとっても斉しく真理であればこそ、初めて真理であることが出来るのだから、苟しくも科学としての科学にそうし
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