流は、暫く鎖《とざ》した日本の水門を乗り越え潜《くぐ》り脱《ぬ》けて滔々《とうとう》と我《わが》日本に流れ入って、維新の革命は一挙に六十藩を掃蕩し日本を挙げて統一国家とした。その時の快豁《かいかつ》な気もちは、何ものを以《もっ》てするも比すべきものがなかった。諸君、解脱《げだつ》は苦痛である。しかして最大愉快である。人間が懺悔して赤裸々《せきらら》として立つ時、社会が旧習をかなぐり落して天地間に素裸《すっぱだか》で立つ時、その雄大光明《ゆうだいこうみょう》な心地は実に何ともいえぬのである。明治初年の日本は実にこの初々《ういうい》しい解脱の時代で、着ぶくれていた着物を一枚|剥《は》ねぬぎ、二枚剥ねぬぎ、しだいに裸になって行く明治初年の日本の意気は実に凄《すさ》まじいもので、五ヶ条の誓文《せいもん》が天から下る、藩主が封土を投げ出す、武士が両刀を投出す、えた[#「えた」に傍点]が平民になる、自由平等革新の空気は磅※[#「石+(蒲/寸)」、第3水準1−89−18]《ほうはく》として、その空気に蒸された。日本はまるで筍《たけのこ》のように一夜の中にずんずん伸びて行く。インスピレーションの高調に
前へ 次へ
全25ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳冨 蘆花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング